社会的な認知がだいぶ進んだ歯科インプラント治療ですが、同治療をご希望されてご来院される患者さんにお話を伺うと、その詳細内容についてのご理解が不十分であったり、ネット検索や伝聞により得られた”偏った情報”をお持ちの方に多々遭遇します。
これより、よくご質問を受けたり、クリニックにてご説明する”歯科インプラント治療”について、Q&A形式でまとていきますので、ご参照下さい。

●インプラント治療とは

インプラントとは英語で「implant=埋め込む」を意味しています。最近ではインプラントと言うと、歯の治療の一種と認識されていますが,整形外科で行われている人工関節の手術や乳房再建術の際にも同様の単語を使う場合があります。正しくは「歯科用(デンタル)インプラント」と述べるのが適切であるかもしれません。
歯は大きく分けて、歯茎から露出している歯冠と骨の中に埋まっている歯根の部分に分けられます。虫歯により歯冠がなくなっても歯根がきちんとあれば、差し歯を入れるなどして、もう一度歯は歯として機能させることが出来ます。しかしながら歯根の部分がだめになると歯はもう歯としての機能を果たすことが出来ません。そう考えると、実は目に見える歯冠より歯根の方が大切だと言えます。
インプラント治療は人口材料で一番大事な歯根の部分を作り直す治療と考えたら分かり易いと思います。インプラント(人工歯根)の上には上部構造(歯冠部)が作成されます。そして、その2つをつなぐアバットメントと言われる連結装置があり、それらが一体となりインプラントとしての機能を果たしていくのです。

インプラント治療の手順について教えて下さい。

下記に当クリニックにおけるインプラント治療(骨増生術、コンピュータガイド型インプラント治療を行わない場合)の流れをフロー図により示します。

1
初診〜診査、インプラント概要説明

主訴の把握、問診
既往歴、アレルギーの有無
口腔内の診査、X線に検査(単純撮影、X線CT撮影)、CT画像によりシミュレーション分析
インプラント治療の概説①
欠損部に対する代替治療法の検討②

2
治療計画の説明

シミュレーション分析に基づく治療計画の説明③
治療計画に基づく治療料金の説明④
既往歴等に問題がない場合、上記①〜④についてのご理解、ご同意を得て、インプラント治療へ

3
インプラント埋入手術(1次手術)

局所麻酔科下にインプラントの骨への埋め込み手術を行う

4
インプラント2次手術…2回法の場合(後述)

局所麻酔科下に歯ぐきの下に隠したインプラント体のキャップをとりかえる

5
アバットメントおよび上部構造における型取り・咬み合わせの記録採取〜装着

アバットメントおよび上部構造製作のための型取りおよび咬み合わせの採取(印象採得および咬合採得)

6
メンテナンスケア

定期的にご来院いただき、クリーニング、咬み合わせのチェック、X線診査等を行っていきます

インプラント治療の流れ
インプラント治療のフロー図

インプラントは、どのような手術をしますか?

インプラント治療に関連する手術には、大きく分けて2つのものがあります。

まず基本で必須となるインプラント体を顎の骨に埋め込む埋入手術、そして骨の量が不足している場合に行う骨増生手術があります。
各々の手術について、付帯的な手術が幾つかあり、両者を同時に行う場合も少なくありません。また、メンテナンスに支障をきたさないよう強い丈夫な歯ぐきを得るため、あるいは見た目が重視される前歯部においては、他の歯ぐきをインプラントを行った部位に移植する軟組織移植手術などがあります。

👉 参考:『インプラント手術 ー外科手術の際にリスクとなる全身疾患ー』

インプラント埋入手術

これより、骨増生手術を伴わないインプラント埋入手術について説明していきます。

手術のステップとしては、1)当該部位における局所麻酔、2)歯肉(歯ぐき)の剥離、3)インプラント埋入窩と呼ばれるインプラント体がおさまる骨の孔を形成、4)インプラント体の埋入、5)歯ぐきを元に戻して縫合、6)止血状態の確認の順番になります。
麻酔は、歯科で一般的に用いられる局所麻酔薬を用いて手術を行います。なお、不安や恐怖心を軽減する目的で静脈内鎮静法と呼ばれる方法を併用する場合があります。鎮静薬を静脈に点滴することで行います。全身麻酔と異なり、自発呼吸、意識を保ったままリラックスすることが可能ですが、施術前に飲食の制限の必要があり、健忘効果の発現や通常の意識レベルを回復するのに術後数時間を要します。

手術に関する所与時間は施術を行う施設によって違いますが、1歯(インプラント1本)あたり、概ね30分程度です。
当クリニックにでは、1歯(インプラント1本)あたり、およそ15分を目安に手術計画をたてます。

インプラント埋入手術における1回法と2回法手術について

インプラントの埋め込み手術には1回法と2回法という術式があります。

これは手術回数による方法の違いを示していて、従来、2回法が標準的な治療方法とされてきました。
具体的な処置手順を記します(上の”インプラント治療のフロー図”をご参照下さい)。

2回法によるインプラント埋入手術
治療部位に麻酔を行った後、切開を行って骨を露出させ、ドリルで穴をあけてフィクスチャーを埋め込みます。インプラント体にキャップ様の背の低いカバーをねじ止めし、歯ぐきの下に隠して縫合します(一次手術)。
インプラント体が骨としっかり結合するのを待ち、2回目の手術を行います。麻酔後、歯ぐきの切開を加え、やや背の高いキャップに置き換え、歯ぐきの上に出すよう縫合します(二次手術)。その後、歯ぐきの状態が安定したら、フィクスチャーにアバットメントを装着して人工歯(上部構造)を作り、装着したら治療完了です。 

インプラント治療における1回法
 近年では、埋め込み手術(一次手術)の際にやや背の高いキャップを入れ、はじめから歯肉上に露出させて2回目の手術を不要にする1回法という術式も普及しています。学術的な統計データでは、1回法と2回法における治療結果に差はないとする報告が多いです。

インプラントの寿命はどのくらいですか?

インプラントの寿命は、お口の中に存在する期間、すなわちロスト(脱落や撤去)するまでのスパンのことを指します。
その具体的な指標としては、生存率(残存率)が用いられます。
これまでの研究報告から、インプラントの種類、インプラントを埋め込む部位や条件により異なるものの、10〜15年におけるその生存率は上顎でおよそ90%、下顎で94%であるとされます。

参考インプラントの寿命(生存率と成功率)について

歯が抜けたあとの処置にはどのような治療法がありますか?

 歯が抜けたあとの部分をそのままに放置すると、周囲の歯が移動したり噛み合わせが変化したりすることでお口の中に悪影響を与えることがあります。したがって、何らかの治療法により喪失した歯の部分を補う必要があります。
 この治療法には、代表的なものとして、1)ブリッジ、2)取り外し式の義歯、3)インプラントがあります。
いずれの治療法にも、治療時、治療後の使用にあたって、メリットやデメリットが存在します。
 現在のお口の中の状態と照らし合わせ、各治療法のメリットとデメリットを良く知り,理解することでよりよき方法を選択することが重要です。

参考歯の抜けたあとの治療法 ーブリッジ、義歯、インプラントー について

インプラントの手術時間はどのくらいかかりますか?

 インプラントは,あごの骨に孔をあけて,人工の歯根(インプラント)を埋める手術が必要です。当日は,手術を行う部屋に入る前に術前説明や血圧測定,また,口の中の清掃や消毒をします。感染を防いで,治療の確実性を高めるためにも大切で,これに30〜40分程度かかります。
 手術時間は歯科医師の技術やスタッフの数・経験により差がありますが,1本なら15分〜20分程度で終わります。ただし,たくさんのインプラントを埋める場合や骨の移植が必要な場合は1時間半程度かかる場合もあります。手術が終わり,止血の確認や血圧測定を終えてご帰宅することができます。したがって,概ね2時間程度あれば手術を終えることが出来ると考えていいでしょう。
なお、麻酔の際に、静脈鎮静療法を用いた場合には、術後に眠気やふらつきが怒りやすく、おおよそ回復するまでに2時間程度を要するためトータルの手術時間(帰宅まで)は延長します。

あごの骨の中に金属を埋め込んでも身体に害はないのですか?

現在、歯科用インプラントの使用材料には金属のチタン、チタン合金が最も多く用いられています。
チタンは体(生体)に対して馴染みがよい、専門用語を使えば「生体親和性が高い」といわれる金属です。チタンは体の中でも化学的に安定しており、腐食しにくく金属アレルギーの発生も他の金属に比べて少ないの特長も有しています。このため、歯科だけでなく、医科(整形外科、循環器内科・外科等)の様々な分野で使用されています。

⇒詳細は、『歯科インプラントに利用される金属材料チタン ー利用される理由と臨床応用のはじまりについてー』をご覧ください。

インプラントは歯周病になりやすいと聞きましたが本当ですか?

歯周病は、細菌の感染により歯の周りの歯ぐきが炎症を起こし、その波及により支持する骨が壊されて(吸収)されていく病気です。
インプラントにおいても、細菌の関与により歯周病と同様な病変が起こり、これはインプラント周囲炎(歯ぐきに限局している場合にはインプラント周囲粘膜炎)と呼ばれます。

歯周病の発症には、細菌感染を抑える免疫等を含めて多くの因子が関連しています。
治療を行われていない歯周病を抱える患者さんにインプラントを行った場合、歯周病の発症に関わっている細菌が短期間のうちにインプラントの周りの歯ぐきにおいて観察されたという報告があります。しかしながら、歯とインプラントが混在するお口の中においてインプラントのみ特異的に歯周病(周囲炎)が発症したという報告はありません。

インプラントを支持する歯ぐきや骨の組織学的な構造は、歯のそれ(歯周組織:参照『歯医者で良く聞く「歯周組織」って何ですか?』)とは異なります。

 

歯周組織とインプラント周囲組織の違い

インプラントは直接的に骨と接触し、歯周靱帯(歯根膜)が欠如しており、歯ぐきを構成する繊維の束の様相が歯の場合と異なっていて、血管網も少ないことがわかっています。
このことは、歯周病のような感染から守ることにおいては不利で、歯における歯周組織に比較して防御能力は低いともいえます。

この組織構成の違う点を考慮すると、同じ感染が歯とインプラント周囲の組織に生じた場合には、防御能力に劣るインプラントにおいて歯周病が生じやすいといえるでしょう。

👉参考記事『インプラントのリスクとなりうる弱点 ーインプラントと天然歯における周囲組織との関わりから見た場合ー』ご参照ください

つづく
22年1月26日(加筆)