インプラント治療には、外科手術が必要です。
インプラントの埋め込み手術や関連手術に際し、全身疾患の有無、既往歴の状態により、手術ができない場合、疾患のコントロール下に施行する場合があります。

インプラント外科手術におけるリスクを検討する場合には、次の2つを考慮する必要があります。
1)外科手術そのものに対するリスク
2)インプラントが骨と結合すること(オッセオインテグレーション)に対するリスク

オッセオインテグレーション(osseointegration)とは

osseo「骨」という接頭語と integration「結合」「同化」と言う語句を合わせた造語である。組織学的に光学顕微鏡レベルで骨とインプラント体が直接接触している状態をさし,生活を営む骨組織と荷重を受け機能している。インプラント表面との間の構造的かつ機能的結合と定義してい

公益社団法人 日本口腔インプラント学会より引用


全身既往歴に基づく外科手術のリスクが高い場合には、主治医への対診、臨床検査に基づくデータを勘案してインプラント外科手術の可否の検討を検討していきます。
下記に示す糖尿病や貧血、ステロイド薬服用ケースでは、オッセオインテグレーションが獲得できないケースをあることから、インプラント治療を行わない場合があります。

下記に手術の際にリスクとなる代表的な疾患を列挙します。

インプラント外科手術に考慮すべき全身疾患

疾患名疾患特徴・リスク要因
高血圧高血圧が動脈硬化を主要因とする場合、心臓(狭心症、心筋梗塞、心不全)、脳(くも膜下出血、脳梗塞)、、腎(腎障害全)に合併症が起こる可能性がある。
血圧のコントロールが良好な場合、インプラント手術で問題が生じる可能性は少ないといわれるが、術中の血圧動態)を大きく変化させない配慮(ストレスをかけない等)およびモニタが必要となる場合がある。
心疾患代表的な疾患として虚血性心疾患、不整脈、心不全、心臓弁膜症、先天性心疾患があげられる。
術前、術後の心臓後遺障害の評価のために内科医との対診および照会を行う必要があり、生体情報モニター下での手術、あるいは麻酔医の立ち会いで鎮静法を併用することがある。
心筋梗塞の発作が起こったケースでは、6ヶ月以上経過し十分良好にコントロールされている場合は手術は可能とされているが、梗塞による障害の程度によっては時間経過をおいてもリスクは高い。
血液疾患・抗血栓療法患者白血病や血友病ではインプラント手術は禁忌である。
抗血栓療法を受けている患者では、PT-INR(プロトロンビン時間) が 2.5 以上の場合は、専門医療機関での加療となる。
脳血管疾患脳梗塞、脳出血、くも膜下出血がある。発症後にる運動麻痺が後遺する場合があること、抗血栓療法を受けていることが多い。他の疾患(高血圧症、糖尿病、 心疾患など)を有していることが多いことから、十分な評価が必要であ。
手術を含めたインプラント治療は、併発疾患の有無、後遺運動麻痺の程度により判断され、
口腔清掃ができない場合には、原則的に禁忌である.。
糖尿病手術を行うか否かの評価は HbA1c 値で判断され、イン プラント手術においても、一般的な待機手術の基準であるHbA1c が 6.9%(NGSP 値)未満が基準となる。
術中、術後の低血糖,高血糖や、コントロール下にあっても病期が長期にわたる場合には他臓器障害の併発もあることから注意が必要である。
高血糖は組織,細胞を低酸素状態に陥らせ,好中球の機能を低下させ,創傷治癒不全の原因となり骨性結合の阻害や歯肉周囲の炎症を引き起こす可能性があるためインプラント治療のリスクとなる。
骨粗鬆症骨粗鬆症は骨強度が低下するため、インプラント治療の局所的リスクファクターとされる。インプラント治療の成功率を低下させるという論文と影響がなかったとする論文があり、明確なエビデンスは未だない。

骨粗鬆症治療薬であるビスフォスフォネート系薬剤を投与されている患者では、ビスフォスフォネート系薬剤関連顎骨壊死(BRONJ)を発症(難治で治療法が確立されていない)させる可能性がある。BRONJガイドラインによる治療が必要で、危険性を含めた十分なインフォームドコンセント、患者の同意、処方医師との連携を要する。
消化器系疾患胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃癌、肝障害、膵臓疾患などがあげられる。
胃・十二指腸潰瘍の既往がある患者では術後の投薬などに注意を要する。
肝障害では、ウイルス性肝炎、肝硬変、肝癌などがあるが、急性期、あるいは末期でなければインプラン ト手術に直接の影響はないとされる。重症肝障害(肝硬変等)では出血傾向があり、術中術後の出血が問題になる。免疫機能低下,低タンパク血症による創傷治癒不全がみられることがある。検査値、AST,ALT が 3 ケタを超える場合、埋入手術は行わない。
腎疾患腎機能の障害により、易感染性、低蛋白血症、口腔乾燥症等を認める場合があり、インプラント治療の成否に影響がある。
腎透析を受けている場合、低カルシウム血症による骨質の低下、易感染性、易出血性による手術のリスクが高まる。
腎不全、重度の腎障害、透析を受けている場合にはインプラント治療は禁忌である。
血液疾患血友病、血小板減少性紫斑病、急性白血病、 慢性白血病、貧血(鉄欠乏性貧血、悪性貧血、溶血性貧血等)など、出血のコントロールができない血液疾患、治療による免疫抑制が強い血液疾患の患者はインプラント手術の禁忌症である。貧血は酸素の運搬機能低下が低下しているため、組織の創傷治癒不全、局所の免疫能の低下から術後感染、 インプラント周囲炎を招来する。
術前に、Hb: 10g/dL未満であれば埋入手術は中止になる。
自己免疫疾患潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、シェーグレン症候群、天疱瘡などの自己免疫疾患により、治療としてステロイド薬が投与されている場合があり手術のリスクがある。
副腎機能抑制は、術中ストレスによるショック(副腎テーゼ)を誘発.、易感染性による術後感染のリスクがある。
アレルギーアトピー性皮膚炎は、インプラントのリスクにはならないが、他のアレルギー疾患を併発していることが多いので注意を要する。
金属はイオン化し体内に溶け出すので、口腔内では歯科用金属材料によるアレルギー反応が認められる場合がある。金属アレルギーが疑われる場合、パッチテスト、リンパ球刺激試験が必要である。
インプラント外科手術の際にリスクとなる全身的な疾患

参考文献:『口腔インプラント治療指針 2016』公益社団法人 日本口腔インプラント学会

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