生体親和性の高い金属チタン

歯科用インプラントの人工歯根として使用される素材には、”生体への親和性が高い”といわれる金属のチタン、チタン合金が最も多く用いられています。
通常、人には外から入ってきた異物は拒絶反応によりこれを排除しようとする機能を有しています。しかし、このチタンが体の中に入ってきても、これを体の一部と認識し、馴染んでしまう性質(親和性が高い)があります。
このことが、インプラントに使用される大きな理由の一つです。

チタンは、歯科用インプラントに限らず、医科領域においても様々な分野で使用されています(下記、医科領域で使用されるチタンの応用方法の表)。

医科領域で使用されるチタンの応用方法

整形外科

脊柱固定器具

骨折固定材

髄内釘、ミニプレート

人工関節

脊柱スペーサー

循環器外科・内科

心臓ペースメーカー(ケース、電極、ターミナル)

埋入型人工心臓

血管内ステンと、ガイドワイヤー

クリップ

歯 科

インプラント

修復材(インレー、クラウン、義歯床)

骨折固定材(ミニプレート、スクリュー)

歯列矯正用ワイヤー

*上表は、成島尚之:生体材料としてのチタンおよびチタン合金., 軽金属55(1),561-565, 2005. より引用

チタン、チタン合金製のインプラントは、この優れた生体親和性により骨の中に埋め込んでも、人(生体)はこれを異物と捉えず骨と認識し、時間経過とともに骨と結合していきます。

インプラントにチタン・チタン合金が利用される理由


1)骨と結合し、軟組織との生体親和性が高い
2)チタンは、酸素との結合力が強く、瞬時にその表面に酸化性皮膜(不動態皮膜)を作り、腐食がおきにくく安定している
3)不動態皮膜により金属イオンの流出が起きにくく、金属アレルギーの発生が他の金属に比較して少ない
4)高い靱性(高い強度と大きな延性)を有していること

各種生体材料の骨との結合様式

チタン以外にも生体への親和性の高く、体の内部に応用される材料はいくつかありますが、その材料と生体組織との反応(結合)様式には違いがみられることがあります。

人の体に埋め込む生体材料は、その結合様式により、1)生体許容性,2)不活性、3)活性の 3 タイプに分類 されます(下記、表)。

1)生体許容材料

 

介在性骨形成:生体材料ー骨間に比較的暑い線維性組織が形成される

金属
 医療用ステンレス鋼
 コバルトクロム合金
有機高分子
 PMMA

2)生体不活性材料

 

接触性骨形成:生体材料に密接して骨が直接的に結合する

金属
 チタン,チタン合金
セラミックス
 アルミナ
 カーボン
 ジルコニア
3)生体活性材料

 

結合性骨形成:生体と形成された骨が直接結合する

セラミック
 ハイドロキシアパタイト
 β-リン酸三カルシウム(β-TCP)
 生体活性かガラス

*宮﨑 隆: インプラントに用いられる生体材料.よくわかる口腔インプラント学(赤川安正ほか編).第3 版.医歯薬出版,東京,51,2017. より引用、改変

咬みしめ、咀嚼といった大きな力が加わる顎の骨の中で機能するためには、しっかりと骨と結合する必要があり、また、用いられる材質においても高い靱性が求められるため、歯科用インプラントの素材として、現在、チタン・チタン合金、ジルコニアが主に利用されています。

現在のインプラント治療のはじまり

今から70年近く前に、 スウェーデンのルント大学整形外科医であるペル・イングヴァール・ブローネマルク(Per-Ingvar Brånemar)先生が実験中に偶然ながらウサギの骨とチタンが結合することを見いだしました。

1960年、スウェーデンのイエテボリ大学解剖学教室教授となったブローネマルク先生は、いくつかの研究によりこの材料が骨だけでなく軟組織に対しても何ら異常、拒絶反応を示さなかったことを確認し、医学領域応用の可能性を見いだしました。それから、いくつかの動物実験を経て、イヌの顎の骨に埋め込んだチタン製インプラントが強固に結合し機能することを確認し、この骨との結合する現象を「オッセオインテグレーション(英語:Osseointegration)」と名付けました。

George A. Zarb , Tomas Albrektsson, et al : Osseointegration: On Continuing Synergies in Surgery, Prosthodontics, Biomaterials., Quintessence Pub Co., 2008.


1965年、はじめて人への臨床応用が行われ、その後、この患者(被験者)が亡くなるまでの41年間、このチタン製インプラントは機能しました。

これが、現在の歯科用インプラント治療の始まりで、現在もその礎になっています。

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