寿命とは、広辞苑によれば、下記のとおりとされます。

1 生命の存続する期間。特に、あらかじめ決められたものとして考えられる命の長さ。命数。「寿命が延びる」「寿命が尽きる」「平均寿命」
2 物の使用に耐える期間。また、その限界。「電池の寿命」「機械に寿命が来る」 

広辞苑より

インプラント治療における”寿命”の捉え方は、インプラントがお口の中で喪失する(脱落して失われる)ことなく機能し続ける期間を指し、その具体的な指標には、”生存率(残存率を使う場合もあります。以下、生存率とします)”が一般的に使用されています。
ここで注意したいのは、よく患者さんの質問でも聞かれる”成功率”とは意味合いが少し異なることです。

これより、この成功率について少し説明を加えます。
現在、インプラント治療における国際的な成功の基準指標としては、1998年に世界的に歯科インプラントに精通する著名な医師・歯科医師、学識者らが集まり開催されたトロント会議でのコンセンサスレポートが使用されています。
下記にその基準を示します。

インプラント治療における成功の基準(トロント会議1998)

・インプラントは,患者と歯科医師の両者が満足する機能的,審美的な上部構造をよく支持している
・インプラントを起源とする痛み,不快感,知覚の変化,感染の徴候などがない
・臨床的な検査時に,個々の連結されていないインプラント体は動揺しない
・インプラントに機能を与えて1年以降の経年的な垂直的骨吸収は年間で 0.2mm 以下である

ここで、今一度、生存率と成功率との違いを整理してみます。
例として下図のようなケースを考えます。

インプラント治療の成功率、生存率の説明図

インプラントがお口の中に入り、2年後の状態で、
A)インプラント周囲炎に罹患した場合(左側図)、B)特に異常なく推移した場合(右側図)を表示しています。

いずれの場合にも、インプラントには動揺等は見られず、患者さんは自覚症状としてインプラントの歯肉の違和感を若干認める程度で食事も問題なくできています。


A)の他覚的な所見としては、感染により歯肉が炎症を起こして出血と膿を認める状態で、炎症の波及で骨レベルも機能させた最初の時点より3mmほど低下しています。
先ほどのトロント会議での成功の基準に照らし合わせてみると、インプラントに動揺はなく機能的におよそ問題ないものの、インプラントを起源とする感染がみられ、垂直的な骨吸収も3mmみられる(異常が見られない場合、2年経過であれば0.4㎜程度がトロント会議の基準)ことから、その基準から見れば失敗したものと評価されます。
なお、B)については、会議の成功基準に適合するものなので、2年目における成功率は100%であるといえます。

なお、A)のケースの場合には、2年の機能期間で脱落すること無くお口の中で機能はしているので生存率(2年)でいえば100%になります。

このように、インプラント治療における成功率と生存率とでは質的な評価の違いがあります。

換言すれれば、生存率はインプラントの健康状況を反映しない指標ともいえます。