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歯の治療におけるMI治療
歯科医療において、最小限の治療介入により歯や歯周組織をできるだけ温存させた状態に保つMI(Minimal Intervention、ミニマルインターベンション)治療が定着しつつあります。
クリニックでも、この概念を踏襲し、できるだけ実践することを心がけています。
MIというキーワードが大きくクローズアップされたのは、2000年ウイーンで行われたFDI(国際歯科連盟:スイスに本部を置き、130以上の国、地域から190以上の歯科関連組織が参加)での虫歯治療に関する声明で、”虫歯は予防できる学術的証拠がある”および”古典的な虫歯治療からの脱却”が主な要旨でした。
*古典的な虫歯治療…虫歯を治す際に、予防的拡大、はずれにくい修復物を装着するために健康的な歯の部分を虫歯部分とともに大きく削る治療
これに修正が加えられた形で、2002年に同連盟から発出された提言は以下のとおりでした。
ーう蝕(虫歯)管理のために、歯を削らない治療に求められる要件(FDI, 2002)ー
1)口腔内細菌叢の変容
2)患者教育
3)エナメル質及び象牙質における非う窩性病変の再石灰化
4)う窩性病変への最小の侵襲による修復処置
5)不良修復物のリペア
解説
1)口腔内細菌叢の変容→虫歯は感染症であるため、(管理・治療の)主な焦点は感染症の管理にあるべきで、プラークコントロールと炭水化物(糖)の摂取量を減少させること。
2)患者教育→齲蝕の病因は、食事療法および経口摂取法による予防手段とともに、患者に説明されるべきである。
3)エナメル質及び象牙質における非う窩性病変の再石灰化→”白斑(虫歯の初期病変)”と呼ばれる齲窩(いわゆる狭義の虫歯。歯の実質欠損を伴った凹の穴をもつ虫歯)を持たない虫歯に対しては、再石灰化を促進する薬物塗布、患者教育、食事指導等を行い経過を観察する。
提言の4)、5)が歯を最小限に削る処置、すなわちMI治療に関することが述べられています。治療においては、虫歯の部位のみを削り、健全な歯をできるだけ温存させるべきであると示されています。
現在、MI治療といえば”歯を最小限に削り温存すること”のみに目を向けられていますが、FDIでの提言のとおり、このバックボーンにあって長期の成功をうるには、その後の疾患予防が必須です。
患者さまと予防のための知識、方法を共有し、実践していくことが何より大切です。
当クリニックの診療方針として掲げている『予防歯科を基軸とした総合的な治療』もこれによっています。
インプラント治療におけるMI治療
外科の基本原則の一つとして、術野を大きく確保し明視下において手術を確実に行うことがあります。しかしながら、反面、これは患者さんの身体に対し侵襲を加え、出血量、組織に加わるダメージや後遺症、療養期間等が常に関連してきます。
このテーゼを修正する形で近年発展したきたのが、低侵襲外科です。
よく耳にする、内視鏡下手術、鏡視下手術(腹腔鏡・胸腔鏡)等がこれにあたり、手術時の輸血量が少なくてすむ、術後疼痛発現の減少、運動機能の維持、在院日数低減による早期の社会復帰等々で大きな貢献を果たしています。
歯科インプラント治療のおけるMI治療
歯科インプラント治療では、2000年以降、診断にX線CT診査を用い、3次元で術野を診査してPC上でインプラントの埋入シミュレーションをする方法が飛躍的に進みました。
さらに、このデータを用いCAD/CAMにより外科手術用の治具(サージカルガイド、サージカルガイドテンプレート)を製作してコンピュータ上で計画したものと同じようにインプラントを埋入する手法(コンピュータガイド型手術)もはじまりました。
コンピュータガイド型インプラント埋入手術
この外科手術では、基本的にフラップレスと呼ばれる手術用メスにより粘膜を大きくめくることなくインプラントを埋入することから、出血や疼痛、腫れの発現が少ない等の利点を有しています。
ショートインプラント利用、グラフトレスサージェリー
また、これまで骨のない部位へのインプラント治療では、骨造成術により術野の改善を行ってきましたが、患者さんに苦痛を与えること少なくありませんでした。
この骨の量が少ないケースにおいて、ショートインプラント(長さの短いインプラント)の使用、インプラントを傾斜させ、既存の骨をできるだけ利用して手術を行うグラフトレスサージェリー等を応用した治療法の予後が良好である研究報告が示されています。
これらのような手法は、上述のコンピュータガイド型手術と同様、患者さんに対する身体の負担が非常に少なくなる利点があり、侵襲を抑えたMIインプラント治療と称されます。
しかしながら、このMIインプラント治療は、インプラント外科の経験、習熟度やシステムに対する熟練度(バーチャルとリアルとの誤差の理解や経験数等)が治療成績に大きく影響します。
私(院長)は、前任の病院において県下で初めてコンピュータガイド型手術を手がけ、これまで多数の症例に応用し、学会、セミナー等でその様子を報告してきました。
当クリニックは、ケースにより積極的にこのMIインプラント治療を適応しています。