別項(「虫歯. ーその病態と治療についてー」)で説明したように、歯(エナメル質、象牙質、セメント質)の無機質部分を作っているハイドロキシアパタイトは、酸(H)の作用によってカルシウムおよびリン酸イオンが溶出してしまいます(これを脱灰と呼びます)。
では、どのくらいの酸の強さにより、歯の脱灰は起こるのでしょうか?

酸やアルカリ性の強さを示す指標の一つにPH(ペーハー、ピーエイチ)がありますので、これにより紹介したいと思います。

PHとは
PHは、水素イオン指数のことで、溶液の酸性・アルカリ性の程度を表す物理量。室温の水溶液では、水溶液のpHが7より小さいときは酸性、7より大きいときはアルカリ性、7付近のときは中性である。pHが小さいほど水素イオン濃度は高い。pHが1減少すると水素イオン濃度は10倍になり、逆に1増加すると水素イオン濃度は10分の1になる。

*Wikipedia より
PHスケール

歯の臨界PHについて

プラーク中のpHが5.5以下に低下すると、エナメル質のハイドロキシアパタイトが溶け出し、カルシウムやリン酸が唾液やプラーク溶液中に溶出するといわれています。

この脱灰が起こる最もPHの高い値のことを臨界PHと呼んでいます。

これにより、歯の臨界PHは、
エナメル質でPH5.5〜5.7
象牙質、セメント質においてはPH6.0〜6.2とされます。

上記の臨界PHの値をみてもわかるとおり、エナメル質よりも象牙質の方が酸に対する作用を受けやすいことがわかります。
つまり、エナメル質よりも象牙質の方が崩壊しやすいということです。

また、乳歯や生えたばかりの永久歯(幼弱永久歯と呼びます)のエナメル質の結晶化が未熟で、その臨界PHは6.0程度といわれます。

う蝕リスクが高い状況では、乳歯、幼弱永久歯では脱灰が起こりやすく、このことが、乳歯は”う蝕感受性が高い”(虫歯になりやすい)といわれる所以になっています。

下の各画像は、乳歯の虫歯の状態をお口のなかの状態(向かって左画像)、X線写真(右画像)で示したものです。

お口の中でみる虫歯の状態は小さな穴となってみられますが、X線写真では赤の矢印で示しているように歯の内部まで濃いグレー(虫歯の部分)が大きく広がっているのがわかります。

このように乳歯、永久歯といった歯の種類、歯を構成する組織(エナメル、象牙質等)の違いにより酸性度は同じであっても脱灰(歯が溶解すること)の状態は異なっています。

すなわち、虫歯リスクが異なるということです。

虫歯が小さいから”もう少し様子見よう”・・・
それは、大きな誤解かもしれません。