インプラント治療に関する術前説明を行っていると、
「インプラント治療は痛いですか?」
と、よく訪ねられます。

コンサルテーションの際に
「インプラントを植立するため、歯ぐきをめくり骨を削って埋め込みます」
と説明を受ければ、そのような思いと不安が浮かぶのは至極、当然の事であると思われます。

インプラント治療に関連する痛みは、インプラント埋入手術(骨造成等の関連外科手術)時と術後のものに分けて考える必要があると思われます。
下記に各々の場合について分けて記していきます。

1)インプラント手術時の痛みについて

手術時は、麻酔が奏功していれば、痛みを感じることはありません。不安が強いような方には、静脈鎮静法を使用する場合があります。

手術は、抜歯を行う際と同様に局所麻酔にて行います。
麻酔が奏功していれば手術中に痛みを感じることはありません。なお、換言すると術者サイドでは、痛みを有する場合には施術ができません。手術の部位が広範囲になる場合には、麻酔の効く範囲を広げるため伝達麻酔という方法を用いることもあります。
また、不安が強い人、血圧が高いなどの持病を有する患者さんには、静脈内鎮静法を応用する場合があります。麻酔剤を静脈に入れてうとうとうたた寝した状態で施術が終わります。なお、この麻酔の応用には適応症があります。

2)インプラント手術後の痛みについて

鎮痛剤等により痛みのコントロール下にあれば、手術当日もほぼ痛みを感じることはなく、翌日もしくは翌々日には消失することがほとんどです。ただし、骨移植、骨造成等により異所性に外科処置部位が増える場合や手術時間が長くなる場合には疼痛の自覚は強くなる傾向があります。

インプラント治療に携わって20年以上になりますが、スタンダードなインプラントの埋入手術(骨移植を伴わないケース)では、術後に痛みを訴えられる患者さん(鎮痛剤を服用)は非常に少ないという臨床実感を持っています。治療に関する書物、解説においても、同様に術後の痛みは少なく、抜歯術と同等の痛みと表現されることが多いです。

今から15年程前、骨の量が少ないケースでは自家骨移植という手法によりインプラントをする顎の部位とは異なるところから骨を採取し、骨量を増やすための移植手術を良く行いました。

自家骨移植部位

このようなケースでは、術野が増え、手術時間も長くかかることから術後の痛みや腫れを認めることをよく経験しました。現在では、骨を増やすための薬剤が多数開発され、骨の高さが足りない場合に応用する長径が短いインプラントの使用(良好な術後データ結果に基づく)等から、上述の自家骨移植を応用するケースは非常に少なくなりました。

話を戻しますが、手術により外科的侵襲が体に加わるので、術後の痛みを防ぐため、鎮痛剤の服薬をしていただきます。概ね、1両日中には、疼痛もしくは違和感は消失するのが普通です。部位にもよりますが歯ぐきを縫った跡の影響もあり、顎を動かしたり、押さえたりする時に、つっぱり感、違和感等を感じられる方はおられますが、”痛み”として認知される方はほとんどおられません。

3)インプラント手術と他の歯科外科手術との痛みの比較について

インプラント手術は、日常臨床で良く行われる歯周外科手術(歯肉剥離掻爬術、歯冠延長術)と比較して、術後の痛みは少ないという調査報告があります。

これより、インプラント手術後の痛みに関して、歯周外科手術(歯肉剥離掻爬術、歯冠延長術)との比較により研究調査した報告があるのでご紹介したいと思います。

歯肉剥離掻爬手術、歯冠延長術について

歯肉剥離掻爬手術(フラップ手術)は、歯周病治療のひとつで、同病変に対する初期・基本治療(歯に付着した歯石や歯垢の除去、ブラッシング指導等)終了後に、症状が改善しない場合、あるいは症状消退後のメインテナンスを容易にするための歯周組織の環境整備のために行われます。手術は、局所麻酔下で、歯ぐきをめくり、歯の根の部分や骨を露出させて、根に付着した汚染物を除去したり不規則に吸収された骨を削って形を整えます。
歯冠延長術は、歯のかぶせを作製する等の際に土台となる歯の高さ(歯冠長という)が不足しているケースに対し、歯根の周りの骨を削り歯ぐきの位置を下げる手術のことをいう。手技的には、上述、歯肉剥離掻爬術と同様である。

フラップ手術イラスト
歯肉剥離掻爬術のイメージ図
歯石除去 – 沈着を予防するセルフケア・歯科医院での治療 ストローマンパートナーズより図引用

日常的に行われる歯周外科手術とインプラント手術における術後患者の主観的アウトカムの比較調査

シンガポール国立歯科センターで、歯科患者468名を対象に、歯冠延長術(CL)、歯肉剥離掻爬術(OFD)、インプラント埋入手術(IMP)の手術を受けた患者468名(2009~2011年)について、術後0日目、3日目、5日および7日目において、出血、腫れ、痛み等を患者の主観より得られるVisual Analogue Scales(VAS)により調査した。

引用:Tan WC, Krishnaswamy G, Ong MM, Lang NP. : Patient-reported outcome measures after routine periodontal and implant surgical procedures., J Clin Periodontol. 2014., Jun;41(6):618-24.

結果は、調査したすべての手術術式において、VASスコアと術後の日数、手術時間との間に統計学的有意差をもって関連がみられました。
下グラフに示すとおり、インプラント手術は、他の手術と比較して調査した日すべてにおいて最低のスコアを示しました。
なお、60分を超すインプラント手術では痛みのVASスコアは値が大きい、すなわち痛みを強く感じる傾向がみられました。

図は、Tan WC, Krishnaswamy G, Ong MM, Lang NP. : Patient-reported outcome measures after routine periodontal and implant surgical procedures., J Clin Periodontol. 2014., Jun;41(6):618-24.より引用、改変

痛みを修飾する因子としては、”不安”が知られていて、事前の告知、説明により不安が和らぎ痛みは減る傾向にあることが心理的な研究報告でわかっています。
痛みを最小限に修めるためにも、私たち術者側においては良く説明することはもちろんのこと、患者さんにおいても充分に説明を聞いて理解していただくことが必要であります。

インプラント治療Q&A

インプラント治療に関するよくある質問をまとめています。是非ご覧ください。