先の記事に続いて、インプラント治療の予後に関連する偶発症について記す。
この偶発症は、大きく外科に起因するもの、インプラント周囲歯周組織(軟組織、骨)ならびにインプラント喪失に関するもの、上部構造のトラブルに関連するものに分けられる。

今日は、上記の偶発症の中でも上部構造、特にアバットメント(アバットメントスクリュー)について少し述べたい。

もともと、歯科インプラントのコンポーネント(インプラント体、アバットメントおよびアバットメントスクリューに限定する)は工業製品であるがゆえ、一般的にいわれているようなバスタブ曲線(故障率と使用時間の関係を示したもの)の概念が想定されうるが、臨床実感からは図に示すような初期故障の発生は非常に少なく、術後、およそ5年ほど経過すると偶発的故障と摩耗故障がやってくるような例を多く経験している。
なお、術後初期からのトラブルは主に上部構造にまつわるもので、リペアー(修復)により改善できるものが多く、今回、言及しているコンポーネントの問題からはずしている。
臨床上、非常にやっかいなのは、アバットメントにまつわるものである。

下記表は、GoodacreCJ(下記、文献1)らが示した骨結合型インプラント治療の偶発症についての研究報告である。

表中のアバットメントスクリューの緩みに関しては、偶発症の発症率からみてもまれではなく、実際、インプラント治療を多く手がけている歯科医師は遭遇する場面が必ずあるはずである。

この詳細については、アメブロに記した拙記事を参照いただければ幸いである。

『沈黙する故障の予兆(2)-インプラント治療における機械的な合併症-』

このスクリューの問題で、手こずるのがスクリューの破折(破損)で、インプラント体内部に破損したスクリューの一部が残存する場合である。

画像は、最近、紹介来院されたアバットメントスクリュー破損のケース(患者さまの同意の元掲載)


埋入元の医院摘出を試みたものの取れず、スクリューホール入口のネジ溝の部分が削去されていた。

破折したスクリューを摘出するには、幾つかの方法があるものの、どうしても撤去が困難な場合には残留したスクリューを削除し、タップを切って新たにスクリューホールを作らなければならない。
大手メーカーでは、専用のキット(ただし、あまり利用需要のあるものではないのでメーカーからの貸し出しとなる場合が多い)がありこれを使用することになる。

画像は、Straumann社のサービスキット。

破折スクリューの撤去、タップ形成は、非常にセンシティブな操作が必要である。

ネット検索では、あまり出てこない偶発症の一つについて今日は記した。

■参考文献
1))Goodacre CJ, Kan JYK. Rungcharassaenget K. : Clinical complications of osseointegrated implants. , J Prosthet Dent 81, 537-552, 1999.