衛生士が行う予防処置って何?
狭義の予防処置、歯科衛生士法について
クリニックに勤め始めてまもない歯科衛生士のスタッフに
『衛生士が行う予防処置は何?』
と尋ねると、まず九分九厘、
『え〜、ブラッシング指導、スケーリング…、フッ素塗布…』と答えます。
決して、これは間違いではありません。
実際、国家資格の礎となっている歯科衛生士法にもきちんと明記されています。
歯科衛生士法は、歯科衛生士の職務・資格などに関して規定した法律で、歯科三法(歯科医師法、歯科衛生士法、歯科技工士法)の一つです。
1948年(昭和23年)7月30日に交付され、電子政府法令データベース(E-GOV)にて全文を閲覧することが可能です。
歯科衛生士法(昭和二十三年法律第二百四号)
歯科衛生士法
第一条 この法律は、歯科衛生士の資格を定め、もつて歯科疾患の予防及び口くう衛生の向上を図ることを目的とする。
第二条 この法律において「歯科衛生士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、歯科医師(歯科医業をなすことのできる医師を含む。以下同じ。)の指導の下に、歯牙及び口腔の疾患の予防処置として次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。
一 歯牙露出面及び正常な歯茎の遊離縁下の付着物及び沈着物を機械的操作によつて除去すること。
二 歯牙及び口腔に対して薬物を塗布すること。
2 歯科衛生士は、保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、歯科診療の補助をなすことを業とすることができる。
3 歯科衛生士は、前二項に規定する業務のほか、歯科衛生士の名称を用いて、歯科保健指導をなすことを業とすることができる。
*E-GOV法令検索 歯科衛生士法(昭和二十三年法律第二百四号)より抜粋引用
医療における”予防”
Leavell & Clark (1965年)の予防モデル
さて、話を戻し、予防(医療)とは?について再び考えてみます。
オックスフォード辞典で【予防】を引いてみると、
『悪い事態を生じないように気をつけ、前もって防ぐこと』と示されています。
これを医療にあてはめてみると、”病気(疾病)にならないように気をつけ、防ぐこと”になりますが、実際の現場では、もう少し視野を広げてこれを捉えています。
医療における予防概念の説明の際によく用いられるのがLeavell & Clark (1965年)によって提唱された疾病の経過過程に応じて示された3つの予防レベルと5つの予防手段の考え方です。
以下、これについて少し説明します。
Leavell & Clark (1965年)の予防モデル
●第一次予防(疾病の発症前)
予防手段…健康増進、特異的予防
第一次予防における手段には、1)健康増進、2)特異的予防 があります。
1)健康増進
健康増進は、自らの健康をコントロールして、改善可能な状態にするプロセスを指します。
疾病にかかっていない段階で、生活習慣、環境の改善など、健康的な生活を実現するための最も基本的な段階のことをいいます。
2)特異的予防
この予防法は、病因の明らかな疾病に対する予防対策です。現在のコロナに対する感染予防策などはまさにこれにあたります。
●第二次予防(発症〜有病期)
予防手段…早期発見・早期治療、機能喪失阻止
第二次予防の予防手段には、疾病の早期発見・早期治療、ならびに機能喪失阻止があります。
症状がまだ発現しない疾病初期の段階を見つけ治療することにより、疾病が治癒し、病期の進展を防ぐことが可能になります。コロナのような感性症の場合、早期治療により患者さん自身の治癒のみならず他の人への2次感染を予防することにつながります。
機能喪失阻止は、文字通り疾病による機能(運動、知覚ほか)の喪失を防ぐ目的があります。
●第三次予防(有病期〜回復期)
予防手段…早期発見・早期治療、機能喪失阻止
第三次予防では、その予防手段はリハビリテーションのことを指し、残された能力を最大限活用し、喪失した機能を回復することにあります。
歯科医療における”予防処置”
上で説明した予防モデルに基づき、歯科衛生士が担う予防処置の一部を下記の表に分けて示してみます。
予防段階 | 予防手段 | 歯科衛生士が行う処置 |
---|---|---|
第一次予防 | 健康増進 | 口腔衛生指導 食事・栄養指導 禁煙指導 |
特異的予防 | フッ化物応用 | |
第二次予防 | 早期発見・早期治療 | ・歯科健診 ・歯周組織検査 ・う蝕の進行抑制…フッ化ジアミン齦の塗布 ・歯周基本処置(スケーリング、ルートプレーニング) |
機能喪失阻止 | ・廃用萎縮をさける唾液腺マッサージ ・開口訓練 |
|
第三次予防 | リハビリテーション | ・補綴治療後の義歯取り扱いや清掃方法の指導 ・摂食嚥下指導 |
表中には記載していませんが、院内感染を防止する器具機材の滅菌・消毒処置や室内環境の清掃も極めて大切な一次予防における手段の一つです。
このように、歯科衛生士が担う予防処置は多岐にわたり歯科診療において無くてはならないものになっています。
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