インプラント周囲組織は天然歯の場合とは異なる
インプラントは第二の永久歯と呼称されることがありますが、天然歯との形態的差異は言うに及ばず、周囲組織の構造様相や機能面において異なる部分があり、その予後に関連するリスク因子となりうることはあまり知られていません。
歯を取り巻く組織は、”歯周組織”と呼ばれます。
以下の記事に詳述していますので、ご参照ください。
なお、インプラントの場合には、歯周靱帯(歯根膜)がなく、上記、歯周組織の定義からは外れるために、本稿では相当する用語として”インプラント周囲組織”と記します。
インプラントの予後においてリスクになりうる天然歯との組織学的構造の違いには、
1)インプラント周囲粘膜上皮の接着性および粘膜抵抗性が低い
2)インプラント周囲組織では血管網が乏しい
が挙げられます。
以下、これについて説明していきます。
インプラント周囲粘膜上皮の接着性および粘膜抵抗性が低い
●インプラント周囲粘膜上皮の接着性および粘膜抵抗性が低い
天然歯における歯周組織では、歯周靱帯(歯根膜)、歯槽骨および歯肉において様々な方向にコラーゲン繊維の層が走行し、歯と骨、歯肉はこの繊維群により強固に付着しています。
インプラントの周囲組織では、粘膜のコラーゲンの繊維束がインプラント体の軸と平行に走行しており、また、歯肉上繊維群と呼ばれる束も欠如しているといわれています1)。
このため、インプラントに接する粘膜との間に歯肉の検査に用いられるプローブと呼ばれる器具を挿入すると容易にその底部(骨頂部付近)にまで達っすることから、組織の機械的抵抗性は低いと考えられています。
インプラント周囲組織における血管網
天然歯の歯周組織では、歯周靱帯内、歯槽骨表面に豊富な血管網があります。
インプラントの周囲組織では、歯槽骨表面に沿って走行する血管網のみが分布していることから、歯周組織に比較して血液供給量が少ないといわれています2)。
このため、感染の際に遊走してくる免疫細胞の数が少ないといわれ、バイオフィルム(プラーク)に対する免疫防御反応は天然歯との場合に比べ弱いといえます。
以上より、天然歯との組織的構造差異から感染源に対する防御反応が弱く、このことは、インプラントのリスク因子ともいえます。
■参考文献
- T. Berglundh, J. Lindhe, et al : The soft tissue barrier at implants and teeth., Clin Oral Implants Res. 2(2):81-90, 1991.
- T. Berglundh, J. Lindhe, K. Jonsson and I. Ericsson : The topography of the vascular systems in the periodontal and peri-implant tissues in the dog., J Clin Periodontol.21(3)., 189-93, 1994.