本年4月以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、テレビ局が放送する番組もドラマをはじめ再放送ものが増えた。
そんな中、広島のテレビ局で夜半に再放送を行っていたTBSドラマ『JIN-仁-』を初見、見事にはまり最終話まで連夜、視聴した。
その第二話(命を救うことの悲劇)、江戸に狐狼狸(コロリ)・コレラが大流行するという話の冒頭場面に目が釘付けとなる。
朝、主人公の仁が歯磨きをしている場面に”房楊枝”が映し出されたのだ。

*記事中画像は、TBSドラマ『JIN-仁-』より引用

房楊枝は、柳などの小枝を20㎝ほどに切り、その先端を煮て鉄鎚で叩いて繊維を出し、針の櫛ですいて柔らかいブラシ状にしたものである。その反対側にあたる柄の先は先端部を尖らせて舌の汚れを落とす”舌こき”として使われたとされる(下記、ドラマ中の画像丸枠内)。


江戸中期より、歯磨き粉(塩を主原料とする)とともに庶民の間に広がったお口の清掃用具である。

歯の博物館
https://www.dent-kng.or.jp/chishiki/museum/hakubutukan/hamigakisyu/hamisyu1.htm
江戸時代の歯ブラシは?|公益社団法人神奈川県歯科医師会
https://www.dent-kng.or.jp/museum/ja/hanohaku02/

ドラマでは、この房楊枝を使っている場面で、綾瀬はるか演じる橘咲(たちばな さき)に感染症の概念(感染は細菌により起こる)を説明しているのが印象的であった。

この時代に歯を磨く目的は、主に汚れを落とし口臭を防ぐことを目的とされ(細菌を取り除く、疾病予防の考えはない)、粋な遊び人であることの証とみなされていたようだ。

以前、アメブロ拙記事にも、この房楊枝をとりあげたので、ご一読いただければ幸いです。

■Amebaブログ にしなか歯科クリニックblog
歯ブラシ探訪 「ようじ(楊枝)」から眺める歯ブラシ・歯磨きのルーツ

 

房楊枝は補助的清掃器具を兼ね備えたブラシ

”房楊枝”は、用いられた土地、時期により違いがあるようであるが、一本の”楊枝”に大きく3種類の機能をもたせたものが存在したようである。

わかりやすいように、各部の役割を図示してみた。

上図のとおり、現在も用いられている器具名で述べると、①歯ブラシ、②ツースピック(デンタルピック、そして③舌ブラシの用途を持たせたものが兼ね備えられていたといえる。

房楊枝の房、すなわちブラシ毛以外の部分は、いわゆるお口の補助的清掃器具に相当する。

歯面、つまり舌や頬で触れる部分は歯ブラシの毛先があてやすく汚れを落としやすい、清掃が困難な部位は歯と歯の間、すなわち歯間部分である。房楊枝では、この汚れを落とすために、ツースピック形状を持たしていた。また、歯以外の舌の汚れを落とす用途をもたせていたのも驚きである。

歯間部、この部位の清掃には、現在ではデンタルフロス、歯間ブラシ、タフトブラシ等がよく用いられている。

特殊なものとして、ウオーターピック(水流による)がある。
しかしながら、現在ではツースピック(デンタルピック)は国内外において、ほとんど使用されていない。
理由は、固い素材では歯ぐきを傷つけやすく、歯垢(プラーク、バイオフィルム)の除去にはあまり有効ではないからである。
唯一、柔らか素材を使用したラバーチップが使用されている。

ただ、今から300年も前に、このようなお口の万能清掃道具を使用していたことは、素晴らしく驚嘆に値する。