前回、インプラント治療に付随して、
歯が無くなっても歯周病菌はいるのか?
について記した。
では、インプラント治療をしない患者さん、歯の全くない総義歯(総入れ歯)をされている方の場合、
- 歯周病菌がいることで何が問題になるのか?
- 口の中を清潔にする口腔ケアなんて、その意義はないのでは?
について書いていきたい。
総義歯を装着されている患者さんにおいて、その清掃が不十分な場合には、清潔を保っている場合に比較して、歯周病菌は増えることが明らかにされている。
Andjelko M. et al : Does the Prevalence of Periodontal Pathogens Change in Elderly Edentulous Patients After Complete Denture Treatment?., J Prosthodont 26(5):364-369, 2017.
これより、総義歯を装着した場合には、歯周病菌を増やさないためにも清掃はきちんとした方がいいことがわかる。
では、なぜ、歯もないのに歯周病菌を増やさない方が良いのか?
換言すれば、なぜ、歯のない人も口腔ケア(歯周病菌を増やさない)が必要なのか?
について下記示してたい。
結論からいえば、
局所的には、義歯の汚れ(デンチャープラーク)内における歯周病菌とカンジダ菌(真菌)の増加に伴い、義歯性の口内炎を誘発しやすいということ
全身的に見た場合、誤嚥性肺炎を引き起こしやすいということの理由から増やさない方が良い。
全身的な影響、特に歯周病菌と誤嚥性肺炎の関連については、近年、マスコミにおいても良くとりあげあれているのでご存じの方も多いかも知れない。
誤嚥性肺炎を引き起こす原因菌には、歯周病原因菌であるるグラム陰性嫌気性菌が考えらている。
誤嚥性肺炎については、歯があり歯周病に罹患している患者さんに比べ歯の無い患者さんに比較して誤嚥性肺炎を引き起こしやすいという研究データがある(つまり菌の量が多いために、肺炎を起こしやすい)。
加えて、
全国11カ所の特別養護老人ホーム入所者366名についての口腔ケアに関する調査を行ったデータより、有歯顎者(歯のある人およびと無歯顎者ともに口腔ケアを行った群において、肺炎の発生が有意に少なかったことが明らかにされている(参考文献1))。
したがって、歯がない(インプラントも含め)患者さんにおいても、歯周病菌の悪さを防ぐためにもお口の中を清潔に保つ口腔ケアは重要である。
■参考文献
1)吉田光由、米山武義、赤川安正:歯がない人にも口腔ケアは必要か? ー「口腔ケアによる高齢者の肺炎予防」2年間の追跡調査結果からー, 日老医誌 38: 481-483, 2001.