前回、前々回の記事で触れた”歯と歯との間(以下、歯間部)の清掃”であるが、その意義は勿論、むし歯(以下、う蝕)、歯周病の予防のためであり、
歯ブラシのみでは、この部位におけるプラークコントロールが困難なためである。

欧米では、歯ブラシと歯間清掃用具との組み合わせによる口腔ケアが普及していて、そのう蝕、歯周病に関する効果のデータも報告されている(下記、論文)。いずれの報告も、併用した方が両疾患の発症を予防することを示している。

  • Slot DE, Dörfer CE, Van der Weijden GA. : The efficacy of interdental brushes on plaque and parameters of periodontal inflammation: a systematic review., Int J Dent Hyg 6, 253‒264, 2008.
  • Wright GZ, Banting DW, Feasby WH., Effect of interdental flossing on the incidence of proximal caries in chil- dren., J Dent Res 56: 574‒578,1977.
  • Biesbrock A, Corby PM, Bartizek R, Corby AL, Coelho M, Costa S, Bretz WA, Bretz WA. : Assessment of treat- ment responses to dental flossing in twins., J Periodontol 77, 1386‒1391,2006.

では、我が国ではこの歯間清掃用具の使用状況はどうなっているのか?
今日は、これについて記したい。

大規模な調査報告といえば幾つかあるものの、国主導で実施される以下のものが代表的である。
1)国民健康・栄養調査
2)歯科疾患実態調査

国民健康・栄養調査
厚生労働省は、健康増進法に基づき、国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基礎資料として、国民の身体の状況、栄養摂取量及び生活習慣の状況を明らかにするため、国民健康・栄養調査を実施。
毎年11月に実施しており、身長、体重、血圧等の身体状況に関する事項、食事の状況やエネルギー及び栄養素等摂取状況に関する事項、食習慣、運動習慣、休養習慣、飲酒習慣、歯の健康保持習慣等、生活習慣の状況に関する事項について、把握し、解析、公表している。
農水省HP 国民健康栄養調査より)

歯科疾患実態調査
この調査は、わが国の歯科保健状況を把握し、歯科口腔保健の推進に関する基本的事項及び健康日本21(第二次)において設定した目標の評価等、今後の歯科保健医療対策を推進するための基礎資料を得ることを目的とする。
厚労省HP 歯科疾患実態調査より)

国民健康栄養調査の結果データは、まとまったものが国立健康・栄養研究所で得ることができる。
「生活習慣調査」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08789.htmlhttps://www.nibiohn.go.jp/eiken/kenkounippon21/eiyouchousa/koumoku_seikatsu_syuukan_chousa.html

歯科疾患実態調査の結果については、厚労省のHPにおいて調査の概要(平成28年)が公表されている。

国民健康・栄養調査の結果は、最新のもので平成22年(2010年)のもので、歯科疾患実態調査の最新データが平成28年ということから一番近位のものである平成28年歯科疾患実態調査のものをここで紹介する。

デンタルフロスや歯間ブラシを用いた歯間部清掃を行っている者は30.6%、舌清掃を行っている 者は16.6%だった。
男女別に見るとほぼすべての年代で女性の方が歯間部清掃または舌清掃割合を行っている者の 割合が高かった。40~70代の女性は5割以上がデンタルフロスや歯間ブラシを用いた歯間部清掃を 行っていた。
平成28年 歯科疾患実態調査結果の概要(厚労省)より

*上図は、平成28年 歯科疾患実態調査結果の概要(厚労省) より引用

およそ3割の人が歯間部清掃用具を使用しており、40代移行の女性では実に5割を越えている結果であった。

なお、歯科疾患実態調査は国民健康・栄養調査に併設される形で実施されているが、平成28年においては、両者の母集団比較の対象の方向性が異なり、データサンプリングが従来のものと異なっていたと報告されている(下記、論文)。
*安藤 雄一 , 岩﨑 正則 , 竹内 倫子 , 北村 雅保 , 玉置 洋 , 柳澤 智仁 : 委員会報告 平成28年歯科疾患実態調査の解析作業報告および今後に向けた提言., 口衛誌68(2), 106-113, 2018.

時系列のデータ比較を行う上では問題になるものと考えられるが、定点の結果としては信頼できるものとしてここに紹介をした。

なお、同様な結果(我が国の歯間清掃用具の使用状況としてはおよそ3割)は、東京医科歯科大学の調査でも確認している。

全世代における歯間清掃用具の使用頻度は,デンタルフロスの常時使用が 30%,歯間ブラシの常時使用が28%,デンタルフロスあるいは歯間ブラシのいずれかの常時使用が 39.4%であった。

北迫 勇一, 高垣 智博, 池田 正臣, 田上 順次 : 各世代における歯間清掃用具の使用頻度, 日歯保存誌60(6) : 282-288,2017.

以上より、”日本では、およそ3割の人が何らかの歯間部清掃用具を使用している”が表題の回答になるようである。

今日はここまで。