患者さまより、可撤性義歯(取り外し式の入れ歯、以下、義歯と略します)に関し、

「夜、義歯を外して寝る方が良いですか?」
「なぜ、寝るときに外すのですか?」


と日常臨床でよく訪ねられます。

基本的に「Yes」です。

下記のような理由により、当クリニックでは義歯を外すことをお勧めしています。

義歯は夜はずして寝た方が良い

■義歯を就寝前に外した方が良い理由

 

1)入れ歯の接触する歯ぐきを休めるため
義歯の歯ぐきに接する部分は、装着・咬みしめにより圧迫されます。義歯の装着を続けた場合、接触した歯ぐき(粘膜の部分)に圧迫されたような跡(義歯の形)やその部に一致して粘膜の発赤が見られる場合があります(下図)。
このような力のひずみを解放するためです。


2)入れ歯に使用している金具(いわゆるバネ)の接触している歯やその近くの歯ぐきをきれいに保つため

就寝時には、唾液の量が減ることが知られています。このため、義歯の清掃が不十分であった場合などには、唾液の自浄作用が不十分になりやすいことから、細菌活動の影響を受けやすくなります。このため、う蝕や歯周病が進行しやすくなります。

3)寝ている間に義歯を謝って飲み込むのを防止するため
外れやすい比較的小さな義歯は誤嚥することがあるので注意が必要です。また、義歯のバネがはずれかけていることに気づかず、やわらかい粘膜の部分を傷つけることがあります。

4)義歯洗浄剤を使う時間に利用するため
義歯用ブラシによる義歯の機械的な清掃に加え、付着した目に見えない汚れ、細菌の除去に義歯洗浄剤は極めて有効です。


その使用は、各種販売商品により異なりますが、概ね、ぬるま湯(40℃以下)で1時間以上浸漬するのが普通です。

不潔な状態が続くと義歯性口内炎(義歯がリザーバーとなる口内炎)の発症に加え、全身への影響も懸念されます。
お口の中の細菌は、咽頭にも定着し、肺へ運ばれる可能性があります。
このあたりを明確に調査した報告を記したブログ記事はすでにアップしていますので、良ければご参照ください。
→歯がない人にも口腔ケアは必要なんです。

誤嚥性肺炎のように、夜間義歯の装着が肺炎発症のリスクを高めることを示唆した調査報告もあります。
この報告では、嚥下障害を自覚し、かつ、夜間に義歯装着をして就寝するひとの肺炎発症のリスクは装着しない場合に比べて約2.3倍であったとされます(下記、文献)。

T. Iinuma, Y. Arai et al. : Denture Wearing during Sleep Doubles the Risk of Pneumonia in the Very Elderly., J Dent Res. 2015 Mar; 94(3 Suppl): 28S–36S.

引用文献

このように、義歯をはずすべきかについては、
”義歯をはずして寝た方が良い”が基本にはなりますが、お口の中の状態や生活上の理由により装着したまま寝た方が良い場合があります。

このあたりは、また別の記事にて。