虫歯予防のためのフッ化物応用の概要

エビデンスレベルが高い虫歯予防法はフッ化物応用

虫歯予防には、ブラッシング、食事管理、フッ化物応用、唾液促進等々があり、中でも一番効果的であるのは”ブラッシングである”と思われる方が多いと思います。

虫歯予防法

・ブラッシング
・食生活改善(糖質の制限)
・フッ化物応用(フッ素歯面塗布、フッ化物入り歯磨剤の使用 等)
・唾液促進(チューイングガムを噛むなど) 
・シーラント  等

ただ、虫歯予防/管理における様々なアプローチおいて、エビデンスレベルが高い研究報告によってその効果が数多く実証されているのは、フッ化物応用であるということはあまり知られていません。

医療、特に科学的根拠に基づく医療(EBM)においては、治療効果(研究結果)を判断する物差しの一つにエビデンスレベルがあります。

エビデンスレベル

エビデンスレベルとは、根拠となる論文の質の評価のためにオックスフォード大学が提唱した研究方法の尺度

1)システマティック・レビュー/randomized controlled trial(RCT)のメタアナリシス
2)非ランダム化比較試験
 a 分析疫学的研究(コホート研究)
 b 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究)
3)記述的研究(症例報告やケースシリーズ)
4)患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見

上記1)〜4)のうち、ランダム比較試験にもとづくメタアナリシスの研究結果が一番信頼性が高い


下図は、FDI(国際歯科連盟)ので示されているExecutive Summary White Paper on Dental Caries Prevention and Management(虫歯予防/管理のための実例付白書)の図です。

FDIExecutive Summary White Paper on Dental Caries Prevention and Managementより

上記FDIのレベル表を見るとわかるとおり、一番レベルの高い評価を受けている虫歯予防法は、フッ化物応用です。以降、シーラント、チューインガム等による唾液促進、食生活改善、抗菌薬という順番になっています。

大変重要な事なので、改めて記します。

これまで、エビデンスベース(研究報告)で信頼度が高い虫歯の予防法は、フッ化物応用であることをご紹介しました。
では、フッ素を塗ったので、『もう、虫歯にはならん』、ブラッシングや食事方法(特に糖質摂取)の改善は必要はないかというと決してそのようなことはありません。
だいたい、ブラッシングをせず歯が汚れたままではフッ素の効果は期待できません。
虫歯は発症に多くの因子が関与する疾患です。
フッ化物応用については、虫歯の予防に関して、その効果は非常に予知性が高いということを知っていただきたく記しています。

したがって、上の表に示した各種虫歯予防のアプローチはすべてにおいて重要であることは論をまちませんことを申し添えます。

虫歯予防におけるフッ化物応用の効用

虫歯予防に関するフッ化物応用の主な効果は以下の3つです。

歯質強化・脱灰抑制作用
再石灰化促進作用
細菌の代謝阻害

フッ化物応用の具体的な方法と使用されるフッ素濃度について

歯のフッ化物応用の方法には、
水道水、食品へ添加する”全身応用”と、
歯科医院や保健センターで歯に塗布する歯面塗布、歯磨き剤に配合して用いる、あるいは学校におけるフッ化物洗口などの”局所応用”があります。

日本では、水道水添加などのフッ化物全身応用があまり普及していませんが、その局所応用については昨今の歯磨き剤(フッ素入りを強調)のCMを見てもわかるとおり、かなり認知されてきているものと思われます。

日本で行われている主なフッ化物局所応用法
1)フッ化物歯面塗布…歯科医院、保健所、区市町村保健センター
2)フッ化物洗口…主に学校
3)フッ化物配合歯磨剤の使用…各家庭

フッ化物局所応用法に用いられるフッ化物とフッ素濃度

方法用いられるフッ化物フッ素濃度(ppm)
フッ化物歯面塗布

2%フッ化ナトリウム

リン酸酸性フッ化ナトリウム 1法

リン酸酸性フッ化ナトリウム 2法

9,000

12,300

9,000

フッ化物洗口

0.05%(毎日法)

0.055%(毎日法)

0.2%(週1回法)

225

250

900

フッ化物配合歯磨剤

フッ化ナトリウム

モノフルオロリン酸ナトリウム

フッ化第一スズ

1,500

1,500

1,000

歯科クリニックにおけるフッ化物歯面塗布

歯科医院で行うフッ化物応用法は、歯面に直接フッ化化合物の薬剤を塗布する形で行います。
使用薬剤には、上記の表に示したとおり2種類のフッ化物があり、各々の薬剤で塗布の回数が異なってきます。

歯面塗布に使用するフッ化物溶液の種類


2%フッ化ナトリウム溶液(NaF)
フッ化ナトリウム2gを100㎖の蒸留水に溶解させて調整されています。薬剤は冷所保存で長期に使用可能です。
○歯面塗布の回数:
1週間に1〜2回の塗布間隔で、2週間以内に連続4回塗布して1単位となりますので、その塗布回数が増えることが欠点とされます。

●リン酸フッ化ナトリウム溶液(APF)
2%フッ化ナトリウム溶液を正リン酸で酸性にしたもので、第1法と第2法があります。
日本で承認され市販されているものは、第2法フッ化物イオン濃度0.9%(9,000ppm)です。

歯面塗布を行う方法について

フッ化物歯面塗布は、歯科医師あるいは歯科衛生士が、歯に直接フッ化物溶液を塗布する方法です。その方法には、

  • 綿球歯面塗布法…綿球にフッ化物溶液を浸して塗布を行う方法
  • トレー法…歯列に合わせた特殊なトレーを用いて行う
  • イオン導入法…特殊な機械を用い、微少電圧を用いて人の体を(+)に帯電させ、歯の表面からフッ素(−)イオンを浸透させる方法

通常の歯科医院では、綿球歯面塗布法が一般的に行われています。

クリニックでの歯面塗布の手順

当クリニックでは、第2法フッ化物イオン濃度0.9%(9,000ppm)のゲル製品を用いています。以下に、その手順を示します。

  1. 歯面清掃

    フッ化物が効果的に発揮されるために、歯の表面についたプラークや付着物を綺麗に除去します。

  2. 防湿

    唾液により薬液が薄められたり、流失したりすることを防ぐために、ロール状の綿、ガーゼ、ラバーダムにより対象となる歯を十分露出させます。

  3. 歯の乾燥

    エアーにより、唾液、水分を取り除き乾燥させます。唾液を持続的にとりのぞく排唾管というものを使うことがあります。

  4. 薬液塗布

    フッ化物のゲル溶液を綿球をつかいながら歯面に塗布していきます。塗布が終わり3分間ほど待ちます。

  5. 防湿の除去

    口の中の防湿に使用した綿やガーゼ、排唾管等をとりのぞき、歯面塗布は終わります。

薬剤の効果を保つために、歯面塗布後、唾液を吐く以外、うがいや飲食は約30分程度はしないようにしていただきます。
一番はじめに記したように、フッ化物応用の効果を過信するのではなく、日常におけるお口のケアが重要であることを良く理解していただくよう繰り返し説明させていただきます。